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コーチの正解に導くということ(コーチングと正義2/2)

先日書いた記事コーチに傷つけられた、あなたへ
について、もう少し解説と補足です。

・自分の正しさを証明するためにコーチングをしないこと。
・クライアントさんを、自分の正しさを確認する道具にしないこと。

について。

前の記事では、
コーチに、過去の傷について放したところ、
「それはダメでしょ!」
といわれた女性の話を書いています。

実は・・この方に関しては、
後日談がありました。

この方の体験のように、
明確な形で、
コーチが、クライアントさんを否定することもあるけれど、

実はもっと、わかりにくい形で・・・
非言語な、無意識な、微細な、微妙な形で、

クライアントさんを否定したり、
操作したりしてしまうこともあるなぁと思っています。

そして、そのほうが、もっと危ない。

**************
(ご本人の許可と文章の確認を経て記載)
その後、いろいろとやり取りをしているときに、
この女性が、

「実は、この過去の事については、
もう、2人のコーチに相談していたんです」

と教えてくれました。

一人目は、先日の記事の「それはダメでしょ!」の人。
彼女はこういわれて、むっとしたし、憤ったし、
このコーチはダメだ、と思って、
(駆け出しコーチだったようです)

別のコーチにお願いしたそうなんです。

その二人目のコーチは、
一人目のコーチより経歴の長いコーチだったとのこと。

この人なら大丈夫だろうと思って。

このコーチは、
表向き、なにも否定してきたりはしなかったのですが・・・

後から考えると、このコーチは、
継続的に、手を変え、品を変え、、

「あなたはどうして、そんなことを引き寄せたの?」

と聞き続けてきたようです。

結果として・・・・
彼女の中に残ったのは、
自分自身への不信感と、
うまく言葉にできないモヤモヤ感でした。

***********

これは、僕は、手法・アプローチの問題ではなく、
あり方・関係性の問題だったのではないかと思います。

確かに、自分の問題に向き合うべきこともあるかもしれないし、
信念や考え方を変えていくことで、
新しい展開が起きることもある。

だから、
「それを引き寄せたとしたら、なんだったんだろう?」
と興味を持って、一緒に探求してみることは、
時には役に立つし、
やってみる価値があるかもしれない。

そこで、探求の結果
「ああ、ここをこう変えればいいんだ!」

という発見があったら、
もちろんそれは、めでたいこと。

だけれども・・・

うまくいかないパターンなんて、いくらでもある。
本人の考え方の事もあれば、
外部環境の事もある。
適切なスキルが足りないこともあれば、
ただ運が悪いときもある。

そして、どう解決するかは、
また何万通りもある。
(原因と解決策が、全く無関係なこともいっぱいある。)

そのときに、コーチの側が、
あらかじめ解決策を決めて、
そこに誘導しようとしたり、

コーチがクライアントさんを
「この人はダメだ。」「間違っている」と思った瞬間から、
どれだけコーチが気をつけても、

いろんな形で、相手を否定し、
コーチ好みのほうへリードしてしまうようです。

そして、そういった、わかりにくい形の操作は、

明確な形より、
もっと危険なのかも知れない、と思います。

実際に、この女性クライアントさんは、
こんなメッセージをくれました。

***********
(ご本人のメールより。許可を得て転載)
最初のケースのようにわかりやすい例の方が
衝撃度は比べようもなく大きく
それに比べて、傷ついたというような感じは受けませんが

表面上ちゃんと支援してくれているコーチに対しては
疑問を持ったり、それを誰かに相談したりするとっかかりすらなくて
ザワザワを感じながらも、軌道を変えるきっかけすらつかめないのが
とても恐ろしいと思いました。

こんなに繊細で微妙で影響の大きい形で人の心に関わっている割に
そのあたりは「深く考えるとコーチングできなくなるから軽く考えよう」という風潮が
あるように感じて、なおさら恐ろしいと思いました。
************

それについて、もうすこし考えてみたいなと。

*     *     *
少しだけ、繰り返しになるような部分もありますが、
お付き合いください。

まず、コーチには、コーチの価値観があります。
コーチが願う世界の形や、
コーチが大切にしたい生きかたや、
本人なりに、この世界で生き抜くための知恵があります。

これは、人間である限り当たり前だし、
何のポリシーをもたずに生きることなんてできない。

好みだってあります。
穏やかな感じがいい、きらきらした感じがいい、
熱いブレイクスルーな感じがいい。
前のめりがいい、やさしさが大切。いろいろあります。

そして、おそらくそのコーチは、
そんな想いがあるからこそ、
コーチングをしている。

これは決して悪いことではないし、
むしろ、すばらしいことだと思います。

少なくとも僕は、
何の思いもないコーチに、
コーチングを受けたくはない。

僕自身も、いろんなことが大切だし、
忘れたくない思いも、
実現したい世界のイメージもある。

そして、僕の価値観や考え方と、
コーチングが大切にしていることが、
似通っていると思うから、

コーチングを通して、
僕の見たい世界や、
僕のいきたい行きかたに近づけそうだから、
コーチングをしています。

そして、多くの場合、
クライアントさんは、僕に何かしら似たような匂いを感じて、
僕のサポートを選んでくれるようです。

これは、僕にとって、とてもありがたいことです。

ただし・・・

クライアントさんの考え方や、価値観や、
あるいは、特定の状況下での判断や
具体的な行動が、

僕とは違うことがある。

むしろ、特に具体的な行動や判断は、
違うことのほうが多いかもしれません。

つまりクライアントさんは、
「西田好みではない」答えを出すことがある。
時には、僕から見れば、
よくわからない選択をすることもある。

自分好みの答えや結論を言わせたくなってしまうのか、
あるいは、その違いを歓迎できるのか・・・

そこが、コーチでいられるか、いられないかの、
分かれ道だと思います。

*      *     *
僕たちは、クライアントさんの話を聞きながら、
いろんな「こうすればいいのに」が頭をよぎります。

「ここを変えるといいんじゃないかな?」とか、
「それをやるとうまくいかないなぁ」とか、
「もっとこうしてほしいのに!」とか。

頭の中に浮かんでくる、
「アドバイス」みたいなもんでしょうか。

こういう考えがでるのは、
一生懸命関わっているからだから、
悪いことではないと思います。

だけれども、
それはあくまでもコーチの見方、
自分ならこうするという、
コーチにとっての個人的なノウハウに過ぎません。

それは、コーチ自身には役に立ちますが、

クライアントさんには、
クライアントさん自身の経験があって、
クライアントさん自身の能力や素質があって、
クライアントさん自身の事情があります。

そして、その経験や能力、事情を本当に知っているのは、
クライアントさん自身です。

僕たちがどれだけいっぱいセッションをしても、
僕たちがどれだけ一生懸命関わっても、
クライアントさんの人生の、10%も共有できない。

(たとえば、毎週2時間話しても、
クライアントさんの人生の、たった、1.2%。
毎日1時間話しても、たった4%))

だから、クライアントさんが見つけた答えや解決策が、
コーチの「こうすればいい」を超えるのは、
とても自然で、当たり前なことだと思います。

コーチングがうまく行っているとき、
ほぼ100%、クライアントさんは、
コーチが思いついた「こうすればいいとは違う、
解決策や、行動や、方針を見つけ出します。

そしてそれは、ほぼ100%、
コーチが考えていた「こうすればいい」よりも、
より良い答えです。

逆に言えば、
コーチの「こうすればいい」を超えた答えを、
クライアントさんに出してもらえるかどうかが、
コーチとしての、腕の見せ所です。

(偶然、コーチのイメージした解決策と、
クライアントさんのイメージした解決策が、
たまたま合致することはありますが、
これは、ただのまぐれ当たりなんだと思います)

つまり、コーチングがうまくいっていれば、
クライアントさんは、
僕たちの期待を、いい意味で、裏切り続ける。
僕たちの想定していない答えを、
出し続けるものなんです。

クライアントさんが、フルに自分自身のリソースを使って、
コーチを超えた答えを出せるサポートをしているか。

クライアントさんが、コーチの想定と違う結論を出したとき、
それを歓迎し、その結論の重要さを伝え、
応援することができるか。

それが、コーチの腕の見せ所です。

*     *      *

ただ・・・時には、
コーチが、クライアントさんの出す結論や考え方を、
受け入れることが困難になってしまうことがあります。

特に、コーチが、強い自信や、思い入れ、
あるいは、傷や、許せない気持ちもっている話題。
あるいはシンプルに、コーチ自身が、余裕を失っているとき。
もしかしたら、ただ単に、コーチの視野が狭いとき。

そんなときは、
ついつい、クライアントさんに、
自分と同じ、考えや行動、結論をとってほしくなる時があります。

逆に、クライアントさんが、
コーチ好みではない答えを出してしまうと、
コーチは苦痛に感じてしまったりします。

コーチングの土台は、
クライアントさんへの敬意・尊重・信頼から成り立っているので、
できる限り、ジャッジメントなし、価値判断なしに話を聞きたいけれども、

コーチだって人間。
時には仕方ないことだと思います。

そんなときは、一旦セッションをとめて、
対等な関係で、人と人として、

「ごめんね、本当はあなたを尊重したいけど、
その話は、私はどうしても受け入れることが難しいの。」

「ごめんね、あなたに寄り添いたいけれど、
私はどうしてもこう思っていて、
冷静に関われないの」

「ごめんね、あなたを応援したいけど、
どうしても、心配になってしまって、
素直に応援できないの」

「あなたは、どうおもう?」

なんて、
自分の気持ちを、伝えて、
話し合えばいいこと。

そうすれば、相手も、
意外と話を聞いてくれたり、

深いところでは、
やっぱり同じものを目指しているがわかったり、

さらに、お互いの信頼が、深まることもあります。

仮に、話し合った結果、
お互いに、ちょっとつらい思いをしたり、
コーチングが完全にうちやめになってしまったりすることになっても、
クライアントさんの尊厳を、
ひどく傷つけることにはならない。

だけど・・・
そのときに、コーチが、
「私のほうが正しい。このクライアントは間違っている」
「私がこの人をなんとかせねば」
「この人は、なんかイケてない」

と思い始めた瞬間に、

コーチが、クライアントさんの考えではなく、
自分自身の考えを優先し始めたとき、

コーチングが、ゆがみはじめ、
コーチングではなくなってしまいます。

時には、「あなたは間違っている!!」といってしまうこともあります。
それが、前の記事での話し。

だけれども・・・・

そういった、明確なダメだしよりも、
もっと危ない、かかわりをしてしまうことがあります。

クライアントさんも察知しにくい、
遠まわしな操作です。

表情や、質問の組み立てや、声のトーン、間の取り方といった、
直接的ではない方法で、

「そんなことを考えているあなたはおかしい」
「あなたはダメだ。いけてない」
「本当は、こうであるべきだ」

というメッセージを発信し、
知らず知らずのうちに、クライアントさんを操作してしまうことです。

これは、コーチ自身が意識していようとしていまいと、
そう思った瞬間から、自動的に始まってしまう、
とめることのできないプロセスです。

そうすると、クライアントさんは、
知らないうちに、
「こんな自分はバカなんだろうか」
「自分がおかしいんだろうか」
「無理してでも、このコーチみたいにならなきゃいけない」

「私が間違っている」

と、思い始めてしまう危険があります。

もしかしたら、直接的にいっちゃったほうが、
まだ安全かもしれない。
クライアントさんは、「そんなことない!」って反論できるから。

だけれども、この気持ちが、
隠された状態で継続されていると、

コーチの好みを察知して、空気を読んで、忖度して、
コーチ好みの人として振舞わなきゃならなくなる。
コーチ好みの答えを、言わなきゃならなくなる。

クライアントさんの無意識に、どんどんと、
「わたしは、私のままでいるとダメなんだ」
というメッセージが打ち込まれる。

そして、
無意識・非言語なプロセスだから、
クライアントさんは、気づくのが難しい。

さらに、表面上の、コーチの、支援的なかかわりと、
裏に隠れているダメだしのメッセージとの矛盾に、
混乱してしまう。

クライアントさんを混乱させ、勇気をくじくのは、
どんな事情があれ、
コーチングではありません。

コーチングは、クライアントさんを支援するためのものです。
コーチングは、クライアントさんの勇気や可能性に、光を当て続けるためのものです。
そのための、理論や哲学や技術です。

(法律上、犯罪行為の支援や黙認は、許されませんが)

クライアントさんを尊重し、信頼し、
ジャッジせず、ともに進んでいくことは、
コーチとしての、最初の約束のひとつですです。

タクシーが、お客さんを怪我させずに、
お客さんが告げた場所に連れて行くのと同じように、

レストランが、お客さんを食中毒にせずに、
お客さんが注文したメニューを出すのと同じような、

もはや言葉で確認するまでもないほどの、
当たり前の、約束です。

その約束を破っていては、
コーチではいられないと思います。

コーチ自身が、どれだけ必死にチャレンジしていて、ブレイクスルーしたくても、
クライアントさんに、それは押し付けない。
クライアントさんが、ゆっくりするのがベストと決めたなら、
それを尊重する。

コーチが、過去にどれだけ傷つけられていても、
その傷は、クライアントさんに投影しない。
クライアントさんの状況に身をおき、共感的に支援する。

コーチがもっている「これが常識」と違うことを、
クライアントさんがやっていたとしても、
引いたり、軽蔑しない。
それをその人の資質の表れとして、大切に扱う。

コーチが、「自分はこうやって生き、死にたい」
「人はこう生きるべき」と思っていても、
クライアントさんには、それを押し付けない。
クライアントさんの生き方を、尊重する。

そのためにもコーチは、
自分の視野を広げていくことが、
とても大切です。

いろんなとこに行き
いろんな人と会い、
いろんな経験をし、
いろんな人生の実験をする。

自分の常識を壊される体験をいっぱいする。
意外と、世界は広いってことを知る。

そして、自分自身に向き合い、
自分自身や他者をを許す旅を続けます。

【まとめ】
ちょっと長くなりましたが、
もう一度まとめます。

コーチが、想いを持っていること、
何かを大切にしていることは、
すばらしいこと。

ぜひその想いを胸に、やっていきたい。

だけれども、コーチの仕事は、
あくまでも、クライアントさんが主役。

自分と違う考えや結論、行動をクライアントさんが取ったとしたら、
それは、すばらしいこと。

コーチングがうまくいっている証拠。

もしも、自分が応援しにくい話が出てきたら、
素直に相談すればいい。

そうすれば、お互いに対等の立場で、
つまりクライアントさんを尊重した形で、
次にいけます。

だけれども、
自分の価値判断で、
相手を、ダメだと思った瞬間に、
コーチングがうまくいかなくなります。

直接責めて、相手を傷つけることもあれば、
間接的に、相手を操作してしまうこともあります。

だから、そうならないように気をつけたいし、
そうなっているなら、すぐにクライアントさんと相談したいし、

そもそもの、自分の視野を広げるように、
いろんな体験をしたいなって思っています。

僕たちは、特定の正義の伝道者ではなく、
ともに、どのように世界や人生を見て行くのが、
その人にとって一番いのちの働きが膨らむか、
探求していく支援者だから。

追記1:後になってから、彼女が
一人目のコーチは

「過去のことが引っかかって、新しく動き出せなくなっている」
という状態について
「それはダメでしょ!」言ったのではないかと思う、

と教えてくれました。

どのような意図であれ

「かなり勢いがあって、言下にスパッと、
という感じから、余計に「異論の余地のないNO」を下されたように感じて、
『そうか、やっぱりダメなんだ・・・』という気持ちになったように覚えています。

さらけ出してもいいはずのコーチングの場で
『有罪と裁かれた』『怒りをぶつけられた』と感じました」
とのこと。

追記2:
こんな話をした後に、
その女性から、1つ質問をもらいました。

「コーチに傷つけられたということを、
そのコーチにフィードバックするべきでしょうか?」

僕は、
「もしもあなたにとって苦痛なら、
やらなくていいと思います。」

と答えました。

彼女がフィードバックしてあげることで、
そのコーチの成長につながる可能性はあります。

だから、もし「フィードバックしてみよう」と思うなら、
やってあげてほしくもあるけれど、

時には、あなたにとってもいい体験になることもあるかもしれません。

だけれども、これはクライアントさんの、義務ではありません。

クライアントであるあなたは、
苦しい思いをするために、コーチングを受けているわけでもないし、
コーチを教育してあげるために、お金を払っているわけでもありません。

運転を教えてあげるためにタクシーには乗りません。
料理を教えてあげるためにレストランには行きません。
それと一緒です。

フィードバックをすることが、
あなたをさらに傷つけそうなら、
無理をしないでください。

それは、
フィードバックをすることが、苦痛になるという関係性を作ってしまった、
コーチの側の、失敗です。
あなたのせいじゃない。

あなたは、あなた自身を守ることを最優先してください。

改めて、あなたの人生を、
応援しています。

追記:もう1つ、コーチであるということについて、多くの人が葛藤することについて、補足の記事を書きました。

コーチに必須の“質問力&応用力”を鍛えよう!

コーチに必要なのは、「クライアントさんを思い通りに操作する力」ではなく「クライアントさんに合わせて、自由自在に対応する力」「瞬間瞬間にダンスする力」とも言います。

・まずは楽しく手軽に、役立つコーチングを身につけたい
・どんな相談でも、自信をもって対応できるようになりたい!
・知らない人とのセッションが怖くて、なかなか内輪での練習から飛び出せない・・・
・改めて「コーチングって何だっけ?」を見つめ直したい


コーチングを楽しく実践しながら、コーチングの土台となる「臨機応変力」を鍛えるツールをリリースしました!!

人生やキャリアなど、この世界には、「正解のないこと」があふれています。そしてコーチングは、答えを教え込むのではなく、ともに正解のない問いに向き合い、クライアントさんととも探求する仕事。

そのためには、コーチが「答え」を知らない話題や、予想外の展開に直面しても、焦らず臨機応変に、クライントさんの探求に寄り添う力が必要です。

だけど書籍や、教室での練習では、「想定外」に対処する力を養うことができません。コンテンツとしてまとめる時点で、どうしてもマニュアル的になってしまうし、予定調和が働いてしまうからです。これまでコーチング教育の世界には、「教室での学び」と「現場での現実」を橋渡しする手法が存在していませんでした。

誰もがコーチとしての底力を養えるツールが「コーチングダイス®」です。
ソリューションフォーカスに基いたシンプルな手法と、「計画されたランダム性」により、コーチとクライアント両方の安心・安全を守りながらコーチングを進めつつ、コーチとしての対応力を鍛えましょう!

コーチングダイス®公式ページ:https://tomoni-inc.com/coaching-dice/

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