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2001年、夏。

2001年、18才。僕は恋をした。
相手は、クロアチアの女の子だった。

AFSの交換留学でノルウェーに派遣され、

まさにど田舎、地図にも載っていない、middle of norwhere。
高校に留学し、
外国人用ノルウェー語講座で、出合った女性だった。

そして彼女との出会いが、僕の人生を決めた。。。のかもしれない。

マリアナ。

姿勢のいい、美しい人だった。
スラブ系の、青い瞳、白い肌。柔らかな笑顔、
語尾がちょろっと下がる、なんとなくかわいさの漂う、
なまったノルウェー語。

看護課に通っていて、
僕よりも確か5才ほど上だったように思う。

だけど、そんなに上に感じることはなかった。
彼女は、クロアチアからの難民だった。

学校に行けなかったから、いま高校生をしている。
とても優しい人だった。

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ノルウェー語のクラスは、
いつも楽しかった。

そしていつの間にか、
彼女とすれ違うだけで、
本当に嬉くって、ドキドキワクワクしてしまう自分に気付いた。

彼女が他の男子生徒と仲良くしていると、
なんだかいたたまれない気分になる、心があった。

そして、僕は、本当に頭でっかちで、

「あらゆるできごとは、論理的に理解可能なものだし、
論理的な証拠付けがない思考や感情は、無価値なものだ」

とすら、本気で信じていた。
僕は、自分の恋心を、認めることができずにいた。

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そして、1年が過ぎ、学校の最終日。
みんなに手紙を渡したり、記念撮影をしたり。

帰りのバスの中家が見えてきて、
僕が降りるときが来た。

「またね、これからも元気でね」なんていいながら、
僕たちは、ハグをした。

その瞬間

「僕は、今この人の元を離れることはできない。」

と言う想いに、全身を貫かれた。
だけど、もう何も言う時間も、何をするチャンスもなかった。
彼女は、ハグの時、僕の左のうなじに、キスをした。

それから1年以上僕は、
ことあるごとにうなじに手をやって、
自分の馬鹿さ加減を呪い、

そのキスに意味があったのかもしれないと後悔し、
何度も何度も、歯軋りをする事になった。
青春の、本当に何もない、どうにもならない、1ページ。

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だけど彼女とのつながりは、これで終わりではなかった。
むしろ、ここから始まったことだった。

帰国1ヶ月ほどして、日本の高校に復帰し、
逆カルチャーショックも一段落した頃。

ニューヨークでの、同時多発テロが起こった。

僕は風呂にはいっていて、
風呂から上がって身体を拭いている時、
父が「なんだか大変なことが起こった」と報せに来た。

そして、あの画面。

煙をあげるセンタービル、
突っ込む飛行機のリプレイ、
混乱した報道現場。
戦争が起こるかもしれないという、報せ。

足元から、地面が崩れ去っていくような。
今まで信じていたリアリティがこな後に打ち砕かれ、

暗闇の中に放り込まれるような。

まさに自分の土台が、崩れ去っていくような感覚だった。

恐れ、おののき、戸惑い、信じられないという思い。
僕はその経験を、受け入れきれずにいた。

そして対テロ戦争が始まり、アフガニスタンの映像が入ってきた。
そこには、マリアナと本当に似たような
色が白く、青い瞳をした人たちがいた。

彼女の家族といわれても信じてしまうような人たちもいた。
その中で、今も覚えている映像。

かわいい、天使のような子どもが、けらけらと笑っている。

アナウンサーが説明するには
「この子の家族が言うには、ミサイルが近くで炸裂して、
発狂してしまったということです」

確か、9.11の次の日は、体育祭。

照り返す太陽の中で、同級生は、昨日のニュースをおもしろがっていた。
映画の中の世界が本当になるという、興味本位の嬉しそうな会話。
リアリティが共有できなかった。

彼らが、死んでいるんだ。

ノルウェーで知り合った、北米出身のロブやデリックが、
ミサイルのボタンを押さなきゃならないかもしれないんだ!

そしてそのミサイルは、
誰かの頭上に落ち、建物を打ち砕き、
その下にいた人は、血を流し、内臓をぶちまけ、
苦しみながら、死んでいくんだ。

そしてその人には、彼の死によって人生を打ち砕かれる、
数え切れない多くの人がいるんだ!!!

激しい怒り。

僕はその怒りを、表現することができなかった。

だけど、僕は、留学の一年によって、
本当に変わってしまったことに、気付いた。
「留学生を世界中に送り出すことで、
相互依存と相互理解を広め、世界平和を実現する」

そんな夢物語のような、AFSの理念が、

本当だと、初めて理解できた。

僕は今ここで、全身全霊で、魂から血を噴出すほどに、
平和を願っている。

僕の友人が、人を殺さないですむように。
僕の大切な人たちが、殺されないですむように。

お互いがお互いを憎みあい、
お互いの命を傷つけるということが、起らないように。

マリアナの、あの微笑をためた、美しい頬が、
血で汚されることのないように。

テレビの向こうにいるはずだった人たちと、

一緒に飯を食う。連れションをする。
たわいない話をする。ビールを飲む。
どうでもいい時間を一緒に過ごす。

そんなことを繰り返すだけで、

僕にとって、「外国人」が、
血肉を持った、リアリティのある存在となった。

僕達と全く変わらない、
殴られれば怒り、
恋人ができれば有頂天になり、
大切な人を失えば涙を流す存在になった。

AFSの一年は、僕を完全に作り変えてしまった。

もしも全世界の人が、ほんの少しでも、
他の国の人たちの生にリアリティを感じられたら・・・・
戦争なんて、起るはずがない。

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そして約10年。今。
本当に苦しい10年でもあった。

政治にも興味がない、経済をやりたいわけでもない。
体力があるわけでもないから、草の根運動もできそうにない。

平和を思い続けながら、
平和を願いながら、

何もできないでいた。

学生時代は、まだ良かった。
社会学を勉強したり、合氣道にのめりこんだり、
内面的な平和について、考える時間があった。

就職して、自分の人生が、
反対に向かって進んでいるような気分に襲われていた。

だからといって、何もできるわけではない。
自分の情熱を感じる分野もない。

これでいいのか、本当にこれでいいのか。
もしも明日死んだとしたら、僕は自分を許せるのか。
自分の人生を、認められるのか。

そんなことばかり考えていた。

そして、スピリチュアリズムにはまり、セラピーをかじるようになり、
心理学を勉強し、研修に関わり、コーチングに出会い・・・
いつの間にか、

「人と人とがわかりあうための智恵」
「人が苦しみを乗り越え、よりよいものを作り出す方法」
「対話を通して、一緒に進んでいく技術」

そんなものが、身に着いてきた。
そしていつの間にか、それが仕事になってきた。
僕は、まだまだちっぽけだけど、

今この瞬間、自分の力で、平和を作り出すことができるようになってきた。

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マリアナ、ありがとう。

あなたがいたから、僕はここまで来たんだよ。
あなたとの出会いが、あなたとの言葉が、
あなたの笑顔が。

僕をここまで連れてきたんだよ。

あなたに会えることは、多分これから、一度もないかもしれない。
僕はあなたの住所も知らないし、メールも届かずじまいみたいだし。

あなたには、多分、一生会えないんだろうと思う。

だけどあなたが僕に与えた影響が、
僕をここまで連れてきて。
そして僕は、今、ちっぽけだけど、自分にできる平和を、創り始めているよ。

あなたを苦しめた戦争が、

あなたをノルウェーに連れてきて、
あなたが僕にくれた喜びが、
僕を、平和への道へと連れて来てくれたんだよ。

あなたが僕に与えた影響は、
これからも広がり続ける。
あなたのおかげで、今の僕がある。

あなたは多分今も生きていて、
誰かを幸せにして、変わらない笑顔を振りまいているんだろうけど、

だからこんな、死人に言うような言い方は、少し変なんだけど、

あなたは、僕の中に、僕の祈りに、僕の言葉に、僕の行動に、
これからも、生き続ける。

本当に、ありがとう。

あなたが今幸せで、大切な人たちと、平和に暮していることを、祈ります。

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