「先生、上司からのパワハラが本当にひどいんです。
給料も安くて、でも転職も難しくて、
家に帰ったら、姑がねちねち、いじめてきて、夫は助けてくれないんです」
あれは、大学3年生の秋。
ボロアパートのこたつの中で、
たまたまやっていた、人生相談をながめていた。
そのころの僕は、完全に自分を見失っていた。
トゲだらけの、寒い迷路の中を、
グルグルととさまようような気持で暮らしていた。
留学から帰ったばかり。
半年遅れの、就職活動なのに、
自己分析の本すら、見たことがなかった。
ついでに、人生最大の失恋で、気持ちもボロボロだった。
ベンチャー企業に応募してみたら、
「君、自分がなしたいかも全然伝わってこないなぁ。
一度、しっかり考えてから、
もし見つかったら連絡してみてよ。」
なんて言われる始末。
採用、不採用じゃなくて、圏外、みたいな。
何のために自分が生きてるのか、わからなかった。
そんな時に見た、テレビの人生相談。
たまたま、霊能者が、回答する順番だった。
ぷっくりとした体形の男性で、和服を着ている。
「あのね、磨くって作業はね、
無数の傷をつけていくことなんですよ?」
ををを、なるほど……
霊とも死後の世界とも関係ない、
妙に、科学的な一言。
霊能力とかには、懐疑的なほうだけど、
そこ一言は、妙に心に沁みてきた。
そういえば、僕は自分への理解が深まった時、
いつも、何かとこすれ合っていた。
例えば、はじめての留学で、ノルウェーに行ったときも。
学校の食堂で、クラスメートの女の子が、彼氏の膝の上に座ってた。
突然、今までなめてたチュッチャップスを彼氏にあげて、
3分後にまた取り返したりしてた。
おおっぴらにいちゃつく2人に、たまげた。
でも、周りの仲間は、当たり前のように、そんな2人とおしゃべりしている。
日本では見たことのない光景だった。
ホストマザーが2回離婚していて、それぞれの夫との間に二人ずつ子どもがいて、その3つの家族が、当たり前に訪問しあっていること。卒業間際の高校生が、自分たちで車を準備して、テキーラとビールをぎっしり積み込んで旅行をすること。いつだって自分の意見と立場を、明確にしなきゃいけないこと。
異質なことの連続だった。
ステキだなと思ったり、嫌だったり、あこがれたり、しんどいなと思ったり……、
いろんな「異質」に出くわすたびに、僕の心が、いろんな反応をした。
「自分って型破りな奴だと思ってたけど、意外と伝統的な家族観を持ってたんだなぁ」
「個性の尊重にはあこがれるけど、ぜんぶ言葉で説明するのも、疲れるねぇ」
「男らしさ、女らしさにしがみつかないこの感じ、自由でいいなぁ」
「異質」なものとこすれ合うたびに、自分の姿が見えてきた。
こんな経験が、就職活動にも、突破口を与えてくれた。
「内にこもって就活本を読んでても、混乱するだけだ!
外の何かと、こすれ合おう!」
大学1年でお世話になったインターンシップ先に、電話をした。
その業界では働く気はなかったけど、
とにかく、実際の「仕事」に、触れてみようと思った。
そこでゴシゴシこすれあったら、何かが見える気がした。
就活はほとんどストップして、
新しいプロジェクトに関わらせてもらった。
知らない人もいっぱいの中で、電話かけたり、資料をまとめたり、
後輩を世話したり、プロジェクトルームのごみを捨てたり……
怒られたり、ほめられたりしながら、ヘロヘロになって布団に倒れこむ日々。
その中で、少しずつ、自分の姿が見えてきた。
「そうかぁ、自分は押しつけがましい、冷たい奴だと思ってたけど、
思った以上に、人に関わることに、ついつい頑張っちゃうやつなんだなぁ」
だから、人材系の会社に入った。
事務作業は壊滅的な下手さだったけど、人とかかわる仕事は、評価された。
うまくいかないときでも、人と関わる部分は、頑張れた。頑張ってしまった。
それから十数年。
僕は、コーチとして、チーム作りや異文化理解の専門家として、
人とかかわる仕事をしている。
僕の姿を教えてくれたのは、就活本じゃなかった。
摩擦、だった。
自己分析でも、瞑想でも、神のお告げでもなくて、
人と会うこと、動くことだった。
同じ人たちといると、ほっとする。
だけど、自分の輪郭が、ぼやけてしまう。
自分と違う人たちといると、時には疲れる。混乱もする。
だけど、そうやってこすれ合うことで、自分の輪郭がはっきりする。
異質な人とこすれ合おうっていっても、
理解されずに否定されてばっかりも、きつすぎる。
異質だけど、お互いに新鮮な興味を持てるぐらいが、
ちょうどいい感じかもしれない。
霊能者の言葉、
自分を磨くっていうのはね、無数の傷をつけていくっていうこと。
宝石を磨くのは、ヤスリ。
そして自分を磨くのに必要なのも、ヤスリ。
何か自分と、こすれ合ってくれるもの。
われちゃったら意味がない。
でも、心地よいタオルでこすっても、何も起きない。
タワシ、ヤスリ、ちょっととがった人たち。
いろんな異質なものと、こすりあう人生を、
これからも歩んでいきたい。
※この記事は、天狼院書店「人生を変えるライティング・ゼミ」の、
メディアグランプリに応募し、いただいたフィードバックを参考に、
さらに書き直したものです。
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【プロフィール】
株式会社おもしろい研修代表取締役。
コスタリカ国連平和大学(UPEACE)国際平和研究修士。
ベンチャー企業での事業立ち上げを経験した後、
2008年に株式会社おもしろい研修を設立、
コーチング事業・研修事業を開始。
2014年、社会人留学。
コスタリカの国連平和大学にて、
50カ国の学生たちと、
文化を超えたチームビルディングを体験した。
大学院卒業・帰国後は内閣府「シップ・フォー・ワールド・ユース・リーダーズ」のファシリテーターを務め、13カ国の若者へのプログラムを提供。
洋上フリースクール「グローバルスクール」にカウンセラーとして世界一周に帯同するなど、国内外の若者の育成にも力を注いでいる。
研修講師・ファシリテーターとしては、
様々なチームでの内部衝突の解決、プロジェクトのキックオフ、ビジョン策定などのサポートをしている。
【実績】
内閣府グローバルリーダー育成
経産省による中小企業の国際化促進事業
ING生命様、
大手SNS運営会社様
イタリア発祥の高級車会社様
など